労働者派遣法の改正
皆さんは、3年前の9月30日に労働者派遣法が改正されたのはご存知でしょうか?
労働派遣法:正規雇用と比べ不安定である派遣社員の権利を守るために、就業条件や賃金、福利厚生などの規定を定めた法律
《改正ポイント》
〇今までは同じ「業務」を行えるのが最長3年だったのが、同じ「組織(課)」で働けるのが最長3年になった
〇雇用下での雇用安定措置とキャリアアップ支援が義務化された
そもそもこの法改正の目的は派遣社員の処遇向上でしたが、この改正法が施行されたちょうど3年ほど前から、本来の目的にはそぐわない出来事が起き始めました。
それは何かというと、業務内容は変わらないにも関わらず、派遣社員としての雇用契約ではなく「自営業者」として業務委託契約を結ぶケースが増えてきたのです。
「いったい何が問題?」と思ったそこのあなた。 もしかしたら知らぬ間に被害をこうむっているかもしれません。
業務委託のリスク
「自営業」といわれると一見自由そうですし、給料にあたる「業務委託料」は時給換算すれば、派遣社員の時よりも高くなりますが、その他リスクは膨大です。
企業側は、自営業者との業務委託であれば、社会保険に加入させる必要はありません。また、契約解除もいつでも可能です。
「正社員と全く同じ職務を自営業者に委託して行わせる」ことで各種労働者問題から回避することが出来るのです。
ここで私が最初に遭遇した事例をご紹介します。
現在、一部上場企業であるゼネラルマーチャンダイズストア(GMS)で商品企画を業務委託で行うデザイナーのAさん。前年まではアパレル会社に派遣されデザイン業務を行っていました。
転職を考えているとき、とある「スキルアップセミナー」に参加します。そこでは転職先の紹介を行っており、今のGMSと出会いました。
Aさんは業務委託制度を紹介され、パソコン1台で自営業者・デザイナーとして起業。
税務署の届出、社会保険、年金等の手続きはすべてそのセミナーで教えられ、毎月の業務報告書とGMSに対して発行する「請求書」が連動したエクセルのシートを渡されます。
給与の支給方法が社員と違うだけで、福利厚生施設も限定的に利用できる。確定申告の仕方なども教えられて「必要経費をつければ税金の還付が出来ます。」「青色申告を選択すれば65万円の控除も出来てお得です。」とメリットばかりが強調されています。
彼女は「業務委託」が「雇用関係」と違って何の保障もないことに気がついていませんでした。
いつの間にか業務委託契約に
次は、あるドライバーさんの例です。
私は自己研鑽のため、所得税の確定申告時に税務署でテレフォンアンサーのお手伝いをしているのですが、その際かかってきた問い合わせの電話でのことでした。
ご本人ではなく奥様が頼まれて電話をされているのですが、初めての確定申告で何が必要なのかわからないという旨のお電話でした。
奥様はご主人が自営のドライバーということが理解できていないご様子で、ご主人の職業を尋ねると「トラックの運転手です。サラリーマンです。」とおっしゃいます。
初めは私も意味がわからず、サラリーマンの方の医療費控除で確定申告が必要なのかと思ったのですが、詳細を1つずつ訊いていくと、
「去年から急に会社から確定申告するように言われて…」「トラック、ガソリン、駐車場はすべて会社持ち」「支払調書をもらってきている」「社会保険は入っていない…」などなど。
一昨年までは同じ仕事をしていて、運転手として雇用されていたものが、昨年から業務委託で運転を受託している者として扱われるようになった様子です。
このように自分の知らないうちに、契約の形態が変わっていることもあるのです。こういったケースは、一般家庭の知識のなさを利用した詐欺行為のように見えて仕方がありません。
「法律」の抜け道を教えるコンサルタントがどこかにいて、人件費の増加に悩む会社に「指導」しているのでしょう。
おそらく、全国には何万人単位の「えせ自営業者」がいて、それと業務委託契約をするブラック企業も100を超える数で存在していると思われます。
もし、ご自分にも思い当たる節があるなという方は、是非社会に「声」をあげてください。そして自分と同じ被害にあっている周りの「自営業者」になってしまった方々にも気付きを与えてあげてください。
厚生労働省でも全国各地で相談窓口を設けています。