2大カフェにみるビジネスモデル
私たちが普段活動している「日本橋」という街。コーヒーを売る店が溢れています。 ちなみにaramakijake.jpという月間検索数チェックサイトで「日本橋 カフェ」で検索すると
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それだけのニーズ・顧客もいるということになります。
同じコーヒーを売る業態であっても、最近は異業種が入り乱れ競争が激化しています。
昔ながらの昭和チックな喫茶店といえば、お客様は店内に入って案内され席に座り、メニューを受け取る。お水やおしぼりまでサービスで配布され、オーダーも席までとりにきてくれる。
そんなフルサービスのお店を思い浮かべます。
この形態で伸びている「コメダ珈琲」もTVの経済番組などで最近はよく取り上げられているほどの増収率を達成しています。
またファーストフードの代表格といえるマクドナルドも最近は食事時間帯以外の稼働率を上げるため、コーヒーにチカラをいれて
「カフェ」としての営業形態を持ち始めたこともビジネスモデルとしては面白い事象です。
オフィスで簡単に美味しいコーヒーが飲めるコーヒーサーバーの設置も急激に普及していますね。
さらにコンビニエンスストアのレギュラーコーヒー販売参入は、このコーヒー業界に大きな変化を与えています。
そんなカフェ業界の中でお客様がカウンターまでコーヒーを買いにいって、席をさがして確保するスタイルのいわゆる「セルフサービス」の2大ブランドといえば
日本では「スターバックス」と「ドトールコーヒー」が筆頭といえるのではないでしょうか?
今日はその2大カフェ「スタバ」と「ドトール」のビジネスモデルの違いを考えてみたいと思います。
2社の歴史
ドトールコーヒーの歴史
ドトールコーヒー創業者鳥羽博道氏の自身の著書によれば、高校1年16歳で父と衝突、そのまま埼玉県深谷市の実家を家出、東京新宿界隈の飲食店を渡り歩くことになります。
そして日本国内で焙煎した本格的なコーヒーに出会い、18歳でコーヒーの焙煎業を営む会社に入ったことでコーヒー業界を知ることになったそうです。
その後ブラジルのコーヒー農園でも経験を積み、1962年、24歳でドトールコーヒーを資本金30万円で立ち上げます。最初はコーヒー豆の焙煎を行う会社としての創業でした。
平成生まれの方々には到底想像はつかないと思いますが、当時の日本の喫茶店事情は今で言う
「オタク」が集う「ジャズ喫茶」「シャンソン喫茶」をはじめ風俗営業的な「同伴喫茶」「美人喫茶」「ヌード喫茶」など不健康なイメージをもたれていました。
そんな中で創業者鳥羽氏は自分の理想とする喫茶店づくりを探しにコーヒー先進国、ヨーロッパへ視察旅行に参加し、
日常的に誰でも気軽にカフェでコーヒーを楽しむ姿に強烈なカルチャーショックを受けたといいます。
帰国後、「健康的」「明るい雰囲気」「誰でも気軽に入れる」「おいしいコーヒー」の喫茶店としてカフェコロラドを開業します。
その喫茶店のコンセプトが時代に受け入れられ、やがて個人営業で苦戦していた喫茶店業者にもその経営手法が認められ、フランチャイズ形式でのカフェ経営に繋がっていったのです。
当時中学校を卒業したばかりだった私も、この時代のタバコ臭い店内で煮詰まったようなコーヒーを出す喫茶店に大人の世界を感じ
1杯300円から500円もするコーヒーを美味しいとも不味いともわからず飲んでみた経験があります。
そんな時代背景の中、1980年、今まで日本になかったコーヒーショップのスタイルで「ドトールコーヒー」1号店が東京原宿にオープン。
カウンターで立ち飲み中心の1杯150円コーヒー。喫茶店業界のみならず日本中の話題となり新聞やTVで華やかにその存在は紹介されました。
株式会社ドトールコーヒーが公式に発表している店舗数はFC923店舗、直営188店舗、合計1111店舗(平成30年11月末現在)となっています。
スターバックスの始まり
スターバックスの原点はコーヒーマニア友人3人が米国シアトルで高品質のコーヒー豆の焙煎・小売の専門店というスタイルで始めたもので、今のようなカフェではありませんでした。
この当時のアメリカのコーヒーといえば昭和の日本人がいうところの「アメリカンコーヒー」。薄くて飲みやすいがコクも香りもイマイチ。大衆的で安い飲み物であったようです。
そんな中でコーヒーマニアの3人がヨーロッパ式の「本物のコーヒーを売る」という方針で開業したのがスターバックスの原点です。
これが中産階級のインテリ思考の人々の心をつかみ、ある程度の成功を収めます。
しかし現在のカフェスタイルのスターバックスを全世界に広げたのはこの最初の3人ではなく、後にスターバックスを買収するユダヤ系ドイツ人のハワード・シュルツという人物でした。
シュルツはニューヨークの貧困地域に生まれます。このことにシュルツ自身は長い間コンプレックスを感じていたようです。
大学を卒業後、一流企業であるゼロックス社に営業職として入社。
ハングリー精神を持ち合わせているシュルツにとって営業は適職であり、トップ・セールスマンとしての地位と収入を得るまでにそう時間はかかりませんでした。
しかしゼロックス社で自らが売る商品に対してあまり興味を持てなかったシュルツはスウェーデン系雑貨卸会社のマーケティング担当副社長に転職します。
その時、シアトルにある当時のスターバックスが大量のドリップ式コーヒーメーカーをその会社に注文します。
そして、あまりの受注数の多さに興味を持ったシュルツが直接シアトルに赴いたことでスターバックスと出会うことになるのです。
まだ3店舗しかない小売店であったスターバックス。しかし「本物のコーヒーを売る」「本物の価値を提供する」という経営方針がシュルツの心を打ちます。
シュルツはこの弱小スターバックスに入社するも、あくまでも高品質の豆の焙煎小売業にこだわる3人との間に溝が生まれ、スターバックスを一度は退社。自らがコーヒーショップを起業します。
その途中で、元スターバックスを買収。現在のカフェとしてのスターバックスを確立することになるのです。
その時はまだシアトルでごく少数のコーヒーマニアに愛され経営していたスターバックスですが、
シュルツは「本物のコーヒー」はもっと多くの人に普及できるはずと信じ、「カフェ・スターバックス」の経営にすべてを賭けるのです。
その「本物の価値」にこだわるスターバックスは現在もごく少数の限られた他企業との業務提携をしていますが、基本的に直営店。
現在スターバックスコーヒージャパン株式会社1392店舗(うちライセンス店舗106店舗/平成30年9月末現在)となっています。
2社のビジネスモデルの違い
スターバックスはエンターテイメント事業
「スターバックス体験」を売る業態、もっと言うと「スターバックスのあるライフスタイルを顧客に提供する事業」とまで実質創業者のシュルツは表現しています。
「どういうことだろう?」と思う皆さんも多いことでしょう。
シアトルに始まり「コーヒーマニア」のための「最高のコーヒー」という超ニッチな世界から、全く文化・環境の違う全世界に展開し成功しているスターバックス。
最初はシュルツ自身でさえその理由を不思議に思ったといいます。
○地域が違ってもなぜスターバックスは人々の心をとらえるのか?
○スターバックスが本当に満たしている顧客の欲求とは何か?
○多くの人々がなぜ行列を作ってまでスターバックスの店を選ぶのか?
この理由についてシュルツは当初「本当に美味しいコーヒーを提供しているから」と考えていました。
しかし、スターバックスの持つ独特の雰囲気。雇用する従業員を「パートナー」と呼びスターバックスの価値観を共有することで生まれた接客の素晴らしさ。身近にあるちょっとした贅沢感。オアシスと呼ぶべき顧客各々にとっての「場」。
創業経営陣の細かなこだわりによって自然発生した「スターバックス体験」という価値が、顧客に求められていることに気付きます。
ドトールコーヒーは経営ノウハウを販売
ではもう一方のドトールコーヒーを考えてみます。
ドトールコーヒーも最初はコーヒー豆の焙煎をして売ることから始まっています。ですからこの部分ではスターバックスの創業時と変わるものはありません。
またどちらも、創業前その土地の文化では「コーヒー」は美味しい飲み物ではなく、その美味しさ・価値が周知されてはいない状況にあったことも変わりません。
その中でちょっと違っていたのが、スターバックスは元々ちょっと高級路線、インテリ・金持ち層をターゲットにしていたこと。
これに対し、ドトールコーヒーは「経済的な負担なく美味しいコーヒーの飲めるコーヒー専門店」を目指していました。
時代は日本の高度経済成長期、年々コーヒーの価格が値上がり、それ以上に店舗の賃料・原材料・賃金が上がっていくインフレ時代がやってきました。
多くの喫茶店経営者が口八丁手八丁の経営コンサルタントに高いフィーを支払い、経営の改善を図ったのにもかかわらず潰れてく始末。
そんな現状を、打破しようと立ち上がったのがドトールコーヒー創業者の鳥羽弘道です。
「150円という、その時代のコーヒー1杯の価格の半分以下で単価を決め、誰でも安心して清潔な環境で美味しいコーヒーを飲める喫茶店の経営方法」
その手法を、自らが実験台になりながら確立することで自身の事業拡大の夢を成功させてきたのです。
ドトールコーヒーの商品とは「日本人が気軽に美味しいコーヒーを飲むカフェの経営ノウハウ」といえるのではないでしょうか?
ここで最初のお題に立ち返ります。
「スターバックスとドトールコーヒーのビジネスモデルの違い」です。
私が認定講師を務めるビジネスモデル・デザイナーの世界観からいうと
スターバックスは
「パッケージングモデル・複数手続代行型」
ドトールコーヒーは
「能力モデル・フランチャイズ型」
と表現できると思います。
もちろん企業・ビジネスとは1つのビジネスモデルだけで成り立っているわけではありません。
いろいろなビジネスモデルがかけ合わせられ「核融合」を起こして壮大に創られていくものです。
ですから両社もパッケージングモデル、能力モデル、それだけを行っているわけではありません。
でもその中に企業理念をも巻き込んだ、なくてはならないコアな部分・核になるべきビジネスモデルをここでは現しています。
日本橋の街に並ぶ沢山のカフェ。税務署的にいうと「飲食業」という1つの分類に入ってしまいますが、
その歴史、企業理念を垣間見るとそれぞれの本当の商品は何なのか、どんなビジネスモデルが核になっているのかが理解できるようになりますね。
そんな目を持って街中を散歩するとあなたにも競合のない新しいビジネスモデルの発想が出来るかもしれません。